働いたら、負けだった。第6話

「ハローワークの窓口はやけに眩しかった」

履歴書は、まだ白紙のままだった。

だけど、これ以上“何もしない日”を重ねるのが怖くなって、家を出た。

スーツは着なかった。

無職の俺にとって、スーツはまだ「痛みの制服」だった。

駅前のハローワーク。

自動ドアが開いた瞬間、世界が変わったような気がした。

明るい。

異様に明るい。

外の曇り空より、ずっと眩しくて――

目が慣れるまで、数秒かかった。

案内カウンターの女性が、にこやかにこちらを見ていた。

「初めてのご利用ですか?」

「はい」

その一言が、喉から出るまで時間がかかった。

番号札を受け取り、待合の椅子に座る。

周囲には、様々な年齢層の男女。

静かに書類を書いている人。

履歴書に何かを写している人。

スマホで求人票を撮っている人。

みんな、戦っている。

俺と同じように、何かを失い、何かを探している。

ほどなくして、番号が呼ばれた。

ガラス越しの相談窓口に、女性職員が座っていた。

優しそうな顔だが、事務的すぎず、踏み込みすぎない距離感だった。

「本日はどのようなご相談でしょう?」

「……えっと、会社を辞めて、転職を考えてはいるんですが……」

言葉が途切れる。

「でも、何をすればいいのか、正直わからなくて」

彼女はうなずいた。

「ご自身の経験や、今後の希望について、少しお聞きしてもよろしいですか?」

経験。希望。

どちらも、口に出せる自信がなかった。

だけど、話しながら少しずつ思い出した。

自分が何をやってきたのか。

どこで、何に傷ついたのか。

「前職では、どういうところがつらかったですか?」

意外な質問だった。

でも、その一言で――なぜか、涙が出そうになった。

「……誕生日に、誰からも何も言われませんでした」

唐突すぎる言葉に、自分で笑ってしまった。

職員の女性も驚いていたが、すぐに口元を緩めて言った。

「それ、わたしも前職でありましたよ。3年連続でした」

二人で、少しだけ笑った。

ほんの、5秒だけ。

その5秒間で、肩の力が少しだけ抜けた。

その日は、職務経歴書の書き方だけ教わって帰った。

まだ白紙の履歴書は、カバンの底にある。

でも、行ってよかった。

話して、よかった。

ここに来て初めて、“辞めたこと”を誰かに肯定してもらえた気がした。

「あなたのせいじゃないですよ」

その一言だけで、今日の帰り道は、少しだけ軽くなった


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