「ハローワークの窓口はやけに眩しかった」
履歴書は、まだ白紙のままだった。
だけど、これ以上“何もしない日”を重ねるのが怖くなって、家を出た。
スーツは着なかった。
無職の俺にとって、スーツはまだ「痛みの制服」だった。
駅前のハローワーク。
自動ドアが開いた瞬間、世界が変わったような気がした。
明るい。
異様に明るい。
外の曇り空より、ずっと眩しくて――
目が慣れるまで、数秒かかった。
案内カウンターの女性が、にこやかにこちらを見ていた。
「初めてのご利用ですか?」
「はい」
その一言が、喉から出るまで時間がかかった。
番号札を受け取り、待合の椅子に座る。
周囲には、様々な年齢層の男女。
静かに書類を書いている人。
履歴書に何かを写している人。
スマホで求人票を撮っている人。
みんな、戦っている。
俺と同じように、何かを失い、何かを探している。
ほどなくして、番号が呼ばれた。
ガラス越しの相談窓口に、女性職員が座っていた。
優しそうな顔だが、事務的すぎず、踏み込みすぎない距離感だった。
「本日はどのようなご相談でしょう?」
「……えっと、会社を辞めて、転職を考えてはいるんですが……」
言葉が途切れる。
「でも、何をすればいいのか、正直わからなくて」
彼女はうなずいた。
「ご自身の経験や、今後の希望について、少しお聞きしてもよろしいですか?」
経験。希望。
どちらも、口に出せる自信がなかった。
だけど、話しながら少しずつ思い出した。
自分が何をやってきたのか。
どこで、何に傷ついたのか。
「前職では、どういうところがつらかったですか?」
意外な質問だった。
でも、その一言で――なぜか、涙が出そうになった。
「……誕生日に、誰からも何も言われませんでした」
唐突すぎる言葉に、自分で笑ってしまった。
職員の女性も驚いていたが、すぐに口元を緩めて言った。
「それ、わたしも前職でありましたよ。3年連続でした」
二人で、少しだけ笑った。
ほんの、5秒だけ。
その5秒間で、肩の力が少しだけ抜けた。
その日は、職務経歴書の書き方だけ教わって帰った。
まだ白紙の履歴書は、カバンの底にある。
でも、行ってよかった。
話して、よかった。
ここに来て初めて、“辞めたこと”を誰かに肯定してもらえた気がした。
「あなたのせいじゃないですよ」
その一言だけで、今日の帰り道は、少しだけ軽くなった
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