「働かなくても、負けじゃなかった」
面接の結果は、不採用だった。
理由は書かれていなかったが、なんとなくわかっていた。
「まだどこか、社会人じゃなかったのかもしれないな」
ひとりごとのように呟きながら、家のベランダに出る。
12月の空気が冷たい。
風は弱く、音はない。
空は、雲ひとつなく晴れていた。
コーヒーを淹れ、ジャージのまま座る。
平日の朝10時。
この時間に働いていないと、なぜか世界に取り残されたような気がしていた。
でも今日は、少しだけ違った。
この静けさを“罰”だとは思わなかった。
スマホを開く。
何気なくYouTubeで見た、ある個人配信者の動画が再生される。
「週3で働いて、あとはずっとゲームしてます」
「年収300万。でも、心はめっちゃ健康です」
かつての自分なら、軽く笑って流していたと思う。
でも、今はその言葉が、どこか誇らしく聞こえた。
“働く”って、なんだ?
会社に行くこと?
満員電車に乗ること?
上司に怒られても飲み込むこと?
数字を出して、評価されること?
それらを否定するつもりはない。
でも、自分はもう、それだけでは立っていられなかった。
働くとは、“誰かの期待に応えること”ではなく、
“自分で選ぶこと”でもあるのかもしれない。
その日の午後、短期の在宅バイトに応募してみた。
簡単な文字起こしの仕事。
時給はよくない。
でも、誰にも怒鳴られない。
何かを「証明」しなくてもいい。
少しだけ“自分の時間”で、誰かの役に立つ。
それが、今の自分にはちょうどよかった。
夜、味噌汁を作りながらふと思う。
辞めてよかった。
たぶん、ギリギリだった。
辞めなければ、もっと壊れていた。
「勝ち」なんて言葉とは、ずっと無縁のままだ。
でも、今日一日を無事に過ごせた自分を、
少しだけ「よくやった」と思えた。
働かなくても、負けじゃなかった。
生きているだけで、今日はちゃんと“勝ってる”。
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