働いたら、負けだった。第1話

「誕生日ケーキは届かなかった」

今日は、俺の35歳の誕生日だった。

いや、正確には「だったはず」だ。気づいたら日付が変わっていたから、もう誕生日ですらない。

朝から終電まで、誰も祝わなかった。

いや、それどころか、誰一人として「おめでとう」とすら言わなかった。

スマホには未読の社内チャットが30件、家族LINEは既読がつかず、SNSの通知はゼロ。

今日は月曜。いつもより重い会議が、3つ重なった日。

上司の伊藤は昼過ぎ、こう言った。

「お前さ、定時に上がるとか、マジで空気読めよ」

俺の顔を見もせずに。

たぶん、あいつ、俺の名前すら覚えてない。

夕方、クライアントからの修正依頼が飛んできた。

「この方向性、全然違います。君、本当にプロなの?」

メールの最後に、ピリオドだけがポツンと残っていた。それがやけに目についた。

ああ、自分は「仕事の失敗」として、ひとつの句点にされたんだな、と思った。

帰り道、ケーキでも買って帰ろうと思った。

せめて自分で、自分を祝おうとした。

だが気づいたときには、もう23時を過ぎていた。

店はどこも閉まっていて、コンビニのショーケースにあったのは、賞味期限の近いチーズ蒸しパンだけだった。

電車の窓に映る自分の顔は、なんの感情もなかった。

スーツの襟は少しよれて、目の下にはクマがあった。

あのとき、ふと思った。

「……これが、35歳の顔か?」

その瞬間、心の中で何かが“コトン”と音を立てた。

会社にいる理由も、キャリアの誇りも、上司への怒りも、全部どうでもよくなった。

これは限界じゃない。

ただの、限界を超えたあとの世界だった。

そして、静かに決めた。

明日、辞表を出そう。

「誰にも祝われない誕生日」が、

「自分を取り戻す記念日」になるなんて、思わなかった。

働いたら、負けだった。

📖 第1話:「誕生日ケーキは届かなかった」

今日は、俺の35歳の誕生日だった。

いや、正確には「だったはず」だ。気づいたら日付が変わっていたから、もう誕生日ですらない。

朝から終電まで、誰も祝わなかった。

いや、それどころか、誰一人として「おめでとう」とすら言わなかった。

スマホには未読の社内チャットが30件、家族LINEは既読がつかず、SNSの通知はゼロ。

今日は月曜。いつもより重い会議が、3つ重なった日。

上司の伊藤は昼過ぎ、こう言った。

「お前さ、定時に上がるとか、マジで空気読めよ」

俺の顔を見もせずに。

たぶん、あいつ、俺の名前すら覚えてない。

夕方、クライアントからの修正依頼が飛んできた。

「この方向性、全然違います。君、本当にプロなの?」

メールの最後に、ピリオドだけがポツンと残っていた。それがやけに目についた。

ああ、自分は「仕事の失敗」として、ひとつの句点にされたんだな、と思った。

帰り道、ケーキでも買って帰ろうと思った。

せめて自分で、自分を祝おうとした。

だが気づいたときには、もう23時を過ぎていた。

店はどこも閉まっていて、コンビニのショーケースにあったのは、賞味期限の近いチーズ蒸しパンだけだった。

電車の窓に映る自分の顔は、なんの感情もなかった。

スーツの襟は少しよれて、目の下にはクマがあった。

あのとき、ふと思った。

「……これが、35歳の顔か?」

その瞬間、心の中で何かが“コトン”と音を立てた。

会社にいる理由も、キャリアの誇りも、上司への怒りも、全部どうでもよくなった。

これは限界じゃない。

ただの、限界を超えたあとの世界だった。

そして、静かに決めた。

明日、辞表を出そう。

「誰にも祝われない誕生日」が、

「自分を取り戻す記念日」になるなんて、思わなかった。


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